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大阪高等裁判所 昭和23年(ネ)252号 判決

控訴人

杉橋昭 外一名

被控訴人

滋賀県農地委員会

主文

原判決を取り消す。

今津町農地委員会が別紙目録記載の土地を買收する計画に対する異議申立を却下した決定に対してなされた訴願について、被控訴人が昭和二十二年五月十三日なした裁決を取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

控訴の趣旨

主文と同旨。

事実

当事者双方の主張は、控訴人において杉橋和夫の父佐兵衞が和夫の代理人として昭和二十二年八月九日本件裁決の送達を受け、昭和二十三年一月六日控訴人が本訴を提起したものであるから、訴の提起期間を徒過したものでないと述べ、被控訴人において、本件裁決は昭和二十二年六月十六日今津町農地委員会からこれを発送したから遲くとも同月二十六日には和夫の代理人佐兵衞に送達せられた本訴は期間経過後のものであつて却下せられるべきものである。本件買收計画はその計画の定められた昭和二十二年三月十七日当時の事実に基いて定められたものであつて、昭和二十年十一月二十三日に遡つて定められたものでない。杉橋和夫の戰死の公報のあつたのは、昭和二十二年十二月十九日であつて、右買收計画の定められた後であるから、右買收計画において本件農地を和夫の所有地として取り扱つたのは当然であり、從つて和夫の最後の住所が大阪市にあつて今津町にない以上本件農地を買收したのは正当である。もつとも控訴人両名が和夫の遺産を相続したこと及び買收計画の定められた昭和二十二年三月十七日当時控訴人両名が今津町に住所を有していたことはこれを認めると述べた以外、いずれも原判決の事実の部に掲げるところと同一であるからここにこれを引用する。

(立証省略)

理由

今津町農地委員会が昭和二十二年三月十七日別紙目録記載の土地を杉橋和夫の所有に属するものとして自作農創設特別措置法第三條第一項第一号の規定により買收する計画を定めた事実、和夫の父佐兵衞が和夫を代理して右計画に異議を申し立て、同農地委員会の異議申立却下の決定に対し訴願したところ、被控訴人は昭和二十二年五月十三日訴願を排斥する旨の裁決をなした事実和夫が昭和十九年八月三十一日戰死した旨の公報が昭和二十二年十二月十九日あつた事実及び控訴人両名が和夫の遺産を相続した事実は当事者間に爭のないところである。

被控訴人は本件裁決は遲くとも昭和二十二年六月二十六日送達せられたから、昭和二十三年一月六日提起せられた本訴は期間経過後のものであつて却下せられるべきものであると主張するから、まずこの点を考えてみよう。成立に爭のない甲第十五号証と当審証人杉橋佐兵衞の証言とを合わせると、本件裁決は昭和二十二年七月九日今津町農地委員会から発送せられたが、遲れて同年八月九日大阪市内に居住する佐兵衞に送達せられた事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると後に認定するように本訴は昭和二十三年一月六日適法に提起せられたものであるから、昭和二十二年法律第二四一号自作農創設特別措置法附則第七條に定めた期間内に提起せられたものといわなければならない。被控訴人の右主張は採用できない。

被控訴人は本訴は当初杉橋民子が原告として提起したのに、その後訴の提起期間を経過した後に控訴人両名を原告に変更したものであるから不適法であると主張するから考えてみるに、別紙目録記載の土地は昭和十九年八月三十一日所有者和夫の戰死によりその遺産を相続した控訴人両名の所有となつたのであるが、戰死の公報がなかつたため和夫の所有に属するものとして買收計画が定められ、異議訴願を経て本訴を提起するについて、原告として控訴人両名法定代理人親権者杉橋民子と記載すべきものを誤つて單に杉橋民子と記載したものであり、單純な誤記に過ぎないことは訴状の記載及び弁論の全趣旨によつて極めて明白である。從つて控訴人両名が当初から適法に本訴を提起した効果の生ずるものであつて被控訴人の右主張も理由がない。

本件買收計画の定められた当時はまだ和夫の戰死の公報がななかつたから和夫の所有として買收計画を定めたのはやむを得ないけれども、その後戰死の公報があつた以上買收計画には所有者として和夫を表示してあつても、その当時既に実質上遺産相続人としてその所有権を取得していた控訴人両名に対する買收計画が定められたものと解しなければならない。そうすると自作農創設特別措置法第三條第一項第一号の規定を適用するのが正当かどうかは右買收計画がその定められた昭和二十二年三月十七日当時の事実に基いて定められたものである以上、右当時控訴人両名が今津町に住所を有しなかつたかどうかによつてこれを定めるべく、その当時既に死亡していた和夫の最後の住所が今津町になかつたかどうかによつてこれを定めるべきものでない。ところで昭和二十二年三月十七日当時控訴人両名が今津町に住所を有していたことは被控訴人の認めるところであるから、今津町農地委員会が前記の規定により別紙目録の土地を買收する計画を定めたのは違法であり、右計画に対する異議申立を却下した決定に対してなされた訴願を排斥した本件裁決も違法であつて取消を免れない。右裁決の取消を求める控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容しなければならないのに、原判決はこれを排斥したから、原判決を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六條第八九條を適用し、主文のとおり判決する。

(目録省略)

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